鹿児島県日置市は新年度から、市内で暮らす世帯の新生児の誕生に合わせて、乳児の衣類やおむつが入った「マタニティーボックス」を無料で配布する。2月には地場銀行の空き店舗を利用して子育ての支援拠点を開設予定。市は“子育てしやすい街”をPRして若者の移住を促し人口減少に歯止めをかけたい考え。厚生労働省によると、マタニティーボックスの無料配布は全国でも珍しいという。

引用元:2016/1/5付 西日本新聞朝刊(【ここで生きる 連載・特集】移住促進へ子育て支援を箱詰め 新生児家庭に無料で必需品 鹿児島・日置市)

年始に記事が出てしばらく…今月、3月2日に鹿児島県日置市は、市内にある南日本銀行の空き店舗を活用して、子育て・女性就労相談窓口「日置市女性センター銀天街(仮称)」を開設されたそうです。ここでは、「子供から大人まで、一人ひとりが望む、より良い生き方を実現していくためにいろいろな目的で集える場所」として、①情報コーナー ②語り合いの場 ③学び合いの場 が設けられています。

現在、日本は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において、人口減少と地域経済縮小の克服、「まち・ひと・しごと」の好循環の確立により、地方創生を推進し、すべての国民が活躍できる社会、いわゆる一億総活躍社会の実現に向けた取組みを始めています。この日置市の人口は2016年3月の統計で50,015人ですが、全国平均を上回る高齢化率に加えて、課題である「人口減少」に歯止めをかけるべく、その一歩として子育て支援拠点を作り、若者の定住を促すことで“子育てしやすい街”として、PRを推し進めていく考えのようです。

空き店舗を利用して人と人とがつながる場所を作ることは大事ですよね。「資源を再利用する」ことで生まれる新たな繋がり・雇用・街へのワクワク感。これが街の将来を左右するのではないかと、近い将来に人口7,000人の田舎町に引っ越す予定の筆者は強く感じています。

羨ましすぎる「マタニティーボックス」の中身

ところで、“子育てしやすい街”を推進していく日置市が配布することにしている「マタニティーボックス」には何が入っているのでしょう?

肌着・洋服・帽子・靴下・よだれかけやおもちゃなど、「育児のスターターキット」として出産後の子育てに必要な物が詰まっているとのことですが、お手本になっているのは、北欧の福祉先進国フィンランドの「育児パッケージ」なのだそう。

フィンランドでは、第一子誕生時の母親手当の一つとして、この「育児パッケージ」か「140ユーロの現金」のいずれかを選ぶことができるようになっており、ほとんどの家庭が「育児パッケージ」を選択するとのこと。それもそのはず!育児パッケージの箱は「簡易ベッド」として使える上に、中身のアイテムも50点ほど入っており、これさえあればしばらく何も買わなくて済むほどの充実ぶりなのです。

所得に関係なく全ての妊婦が無料で受け取ることができるという点も、さすが子育て大国!
新しい命を平等に祝福するムードが伝わってきます。

妊娠から出産、子育てまでを切れ目なく支援する「ネウボラ」の魅力

ここで、フィンランドの子育て支援「ネウボラ」について少しご紹介します。(前述の育児パッケージは、この「ネウボラ」もしくは「医療機関」で妊婦健診を受診している方が受け取れるサービスです)

ネウボラ(neuvola)はアドバイス(neuvo)の場という意味で、妊娠期から就学前までの子どもの健やかな成長・発達の支援はもちろん、母親、父親、きょうだい、家族全体の心身の健康サポートも目的としています。フィンランドでは妊娠の予兆がある時点でまずネウボラへ健診に行きます。ネウボラはどの自治体にもあり、健診は無料、全国でネウボラの数は850です。妊娠期間中は6-11回、出産後も子どもが小学校に入学するまで定期的に通い、保健師や助産師といったプロからアドバイスをもらいます。健診では母子の医療的なチェックだけでなく、個別に出産や育児、家庭に関する様々なことを相談でき、1回の面談は30分から1時間かけて、丁寧に行います。また、担当制になっているため、基本的には妊娠期から子どもが小学校にあがるまで、同じ担当者(通称「ネウボラおばさん」)が継続的にサポートをするので、お互いに信頼関係が築きやすく、問題の早期発見、予防、早期支援につながっています。医療機関の窓口の役割もあり、出産入院のための病院指定、医療機関や専門家の紹介もしてくれます。

引用元:フィンランド大使館、東京 より一部抜粋

日本でも、昨年度からこのネウボラを参考にした「子育て世代包括支援センター」のモデル事業を千葉県浦安市や宮崎市など29市町村でスタート。本年度中に150市町村、5年後には全国展開を目指しているということです。

「孤育て」という造語が生まれるほどに、孤独を感じてしまうことも多い子育て。

ネウボラのような取り組みが各地で当たり前の存在になれば、生まれ育った町を離れて妊娠・出産・子育てを行う方々や、日中一人で育児に向き合っている方の不安も少しは解消され、各家庭での育児の質も向上することでしょう。

「子どもがいないまち」に未来はあるのか

「子どもを産み育てること」のメリットは夫婦にとっての楽しみが増えたり、夫婦の絆を深めることにとどまりません。地域にとっても、人口を保つことや、「子育てしやすいまち」として移住定住を促すきっかけになるなど、良い面がたくさんあります。
 

以前、「地方から日本を変える まちを潤す“にぎわい革命”」として、過疎化が進んだ島根県 海士町へ移住する人たちについて報道がありました。減り続けてきた人口に歯止めをかけたのは、まちが全国に先駆けて整備してきた移住者への手厚い支援制度だったそうです。まちの状況によって整えることのできる制度(優先されること)は異なるかと思いますが、今だけでなく「次世代に繋がるまちづくり」を本気で進めていくなら、子どもを生み育てられる環境整備も急務だろうと思います。

核家族で子育てを行う人が増えた今、日常的に繋がりのある「まちの人」や「まちの環境」こそが、頼れる存在であり、子育て世代の生命線です。そこで暮らしていけるかどうかを判断する基準にもなってきます。

あなたが住むまちには、いざという時に頼れる人はいますか?
「子どもはみんなで育てよう!」という気風が感じられますか?

「ここで子どもを産み育てたい」と思えるようなまちづくりを進めること。
新しい命を祝福する空気をまち全体に広げていくこと。

「子どもがいるまちづくり」を進めることこそが、地方創生への近道・・・かもしれませんね。